珠玉の古典的ホラー小説集。平井呈一訳『怪奇小説傑作選1』

 

皆さま、こんにちは。小暮です。

今回は、平井呈一訳『怪奇小説傑作選1』についてです。アンソロジー作品ですので、1作ずつ書いていきたいと思います。

 

ブルワー・リットン『幽霊屋敷』

幽霊屋敷をめぐる怪奇譚。ロンドンに実在する幽霊屋敷がモデルとなっているそうです。前半、幽霊屋敷に潜入した主人公が次々に怪異に遭遇します。誰もいない庭に足跡だけが現れ、椅子がひとりでに動き、やがて過去の因縁めいた幻が次々に出現。一室で、殺人をほのめかす内容の手紙を見つけたものの、その手紙も現れた手の幻影にさらわれてしまい……。

……夜中に呼んでいると、背筋がゾーッと寒くなりそうです。

後半は幽霊屋敷の謎に迫るのですが、ここで主人公が語る独特の理論がよくわからない。作者のリットンは、どうも魔術に傾倒していたようで、それが反映されているんだとか。

悠久の時を超える蛇相の人物は、某国の大統領を思い浮かべてしまいました。世紀をまたいで国家元首の座についていたなんて想像すると面白いですね。

 

ヘンリー・ジェイムズ『エドマンド・オーム卿』

「ねじの回転」の作者であるヘンリー・ジェイムズの作。ジェイムズの傑作とされる「ねじの回転」についてはこちら。

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美しい女性シャーロットに恋した主人公。彼はシャーロットの母親マーデン夫人に気に入られ、ライバルたちよりも有利に話を進められる立場になります。ところが、マーデン夫人はある秘密を抱えており、やがて主人公は謎の紳士を目撃するように……。

マーデン夫人が過去に買った恨みが発端の怪奇譚。ショッキングに描かれたラストシーンに、冒頭で軽く触れられている後日譚もあいまって、暗い読後感です。途中までそう怖くはないのですが、無言のうちに、何年も夫人を脅かし続けていた悪意が、ラストに集約されているようで……。けれども、最後には一抹の安息が得られたのではとも読み取れます。主人公の願いであったのかもしれませんが。

 

M・R・ジェイムズ『ポインター氏の日録』

ロンドンの古本のせり市で、デントン氏はポインター氏が記した日録を手に入れます。その中に貼り付けられていた一枚の古布の、不思議な柄に魅せられ、デントン氏は職人に型を復刻させることに。そうして出来上がったカーテンを部屋にかけたところ、その深夜に怪異が起こり……。

学者然とした渋い発想だなあと思っていたら、作者のジェイムズは本当に学者だったらしいです。曰くつきの古物を手に入れたい気持ちはわかる気がします。平和な日常と怪異の対比が印象的です。

 

W・W・ジェイコブズ『猿の手

3つの願いを叶えるという猿の手を手に入れた3人家族。とりあえず、200ポンドを得ようと、軽い気持ちで願をかけますが、思わぬ形でお金が手に入り……。

あくまで、単なる偶然といえなくもないのが良いですね。猿の手をめぐる心の葛藤が見どころ。苦渋の決断を下さざるを得ないという心理がよくわかります。

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アーサー・マッケン『パンの大神』

「パンの大神」について独自の見解を持つレイモンドは、少女メリーに脳の手術を実施。手術後、彼女は正気を失ってしまいます。その場に立ち会っていたクラークは後日、趣味で怪奇譚を収集しているうちに、ヘレンという少女にまつわる小村の怪事件を知ることに……。またクラークの知人ヴィリヤズは浮浪者となってしまった大学の同窓生ハーバートに再会。ハーバートは結婚後に人生が狂ったといい、その背後にはヘレンという謎の女性の影がありました。

悪魔の化身のような人物が巻き起こす怪事件。超自然ものですが、探偵小説の態で面白いです。謎の多くは解明されず、読者の側でだいぶ補完がいります。メリーとヘレンは同一人物なのか、そうではないのか、パンの大神とは何者なのか……。なんとなくわかる、ギリギリのところで成立しているような。メリーの脳手術の罪深さはひどいものですが、背徳が物語の魅力でもあります。

 

E・F・ベンスン『いも虫』

タイトルどおりのものがわんさか出てきます。苦手な人には怖くてたまらない話かと。個人的にはちょっと、違うんじゃないかと、思ってしまいました。もし実際にあったら幽霊より怖いかもしれませんが。

 

アルジャーノン・ブラックウッド『秘書綺譚』

この作品は以前取り上げたので割愛します。以前の記事はこちら。「秘書綺譚」以外の作品とあわせてご紹介しています。

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 ……ええ、割愛といいつつ、一言言っておきたくなるくらい平井氏の独特の訳が面白いです。葉巻をプカリプカリふかしながら喋るサイドボタム氏など、絵が浮かびます。

 

W・F・ハーヴィー『炎天』

この暑さじゃ、人間の頭だってたいがいへんになる。

ある炎暑の日に起こった、挿絵画家の風変わりな体験をつづった手記。

これはもうショートショートですね。予備知識がないほうが確実に楽しめるかと。

 

J・S・レ・ファニュ『緑茶』

医学博士のヘッセリウス氏が出会った、好人物のジェニングズ氏。牧師の彼は何か言いたげに博士に近づき、博士も氏の抱える秘密を察します。やがてジェニングズ氏は秘密を打ち明けるのですが……。

 この話は別の意味で謎めいているかも……。カフェインのことをいっているのでしょうか。しかし、科学的に起こりうるのでしょうか。科学的なんて言葉は、大して好きではありませんが……湯飲みの中をじっと見る。怪異の入り口? なんていう気分になれそうです。

 

 まとめ

まさに珠玉の古典的ホラー小説集といえる一冊ではないかと思います。私的に「パンの大神」の世界観が魅力的でした。平井呈一氏のあとがきも、怪奇小説の歴史や「オトラント城」のあらすじが書かれていて興味深いです。日本の怪談といえば夏ですが、欧米の怪奇物は冬の夜にぴったりですね。

 

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