天使のような幼子と幽霊。ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』|英米怪奇小説

 

皆さま、こんにちは。小暮です。8月です。

今日はヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』についてです。以前、読みたい本として挙げていた一冊。期待に応える内容でした。

 

アメリカに生まれイギリスで活躍した作家

ヘンリー・ジェイムズは19~20世紀のアメリカ人作家ですが、およそ40年に渡ってロンドンで生活し、 イギリスの文壇で活躍しました。幼い頃から富豪の父に連れられ、たびたびヨーロッパを訪れており、国際感覚に優れた人物として評価されています。

さて『ねじの回転』は1898年に発表された作品で、田舎の屋敷に住む幼い兄妹を中心に展開される幽霊譚です。怪談を語る趣向の会で、話の一つとして披露される形で、物語は始まります。タイトルは、子供をキーポイントとするひねりのきいた話であることに由来しています。

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現代的な幽霊譚

『ねじの回転』は幼い兄妹の家庭教師として派遣された若き女性が主人公です。その丹念な心理描写によって幽霊騒動がリアリティを持って語られるところが大きな特徴で、昔ながらの幽霊譚とは一線を画す現代的なホラー小説といえそうです。

主人公は、兄妹の伯父の依頼で田舎の屋敷ブライ邸に派遣されるのですが、この伯父は父母を失い自分が引き取ることになった兄妹と関わることをあからさまに面倒がっていて、主人公にも給金を弾むかわりに一切連絡してこないようにという契約を持ちかけます。はじめから外部のサポートが期待できない状態で、彼女は屋敷に向かうことになります。

 

孤軍奮闘する主人公

ブライ邸に到着した主人公は、やがて幽霊の暗い影に脅かされるようになります。その姿が見えるのは彼女だけなので、誰の助けも得られません。

何か問題に直面していて、一人で解決するのが難しく、相談したいのに誰にも聞いてもらえない……それどころか、そんな問題があるはずがないと言われ、自分がおかしいことにされてしまいそうだ……。

人が追い込まれていく典型例です。

主人公の場合、女中を束ねるグロース夫人という女性が、幽霊は見えないもののその言葉を信じ、協力してくれるのでまだ救いがあります。しかし、雇い主ははじめから頼りにならないし、屋敷の責任者として幽霊騒動に一人で立ち向かわなくてはなりません。彼女はこのとき若干20歳。その重圧たるや……。

 

天使のような子供たち

主人公が勉強を教えることになるのは、兄のマイルズと妹のフローラ。10歳と8歳の愛らしい兄妹です。 彼らは容姿も性格も天使のように可愛らしく、主人公は一目で二人を気に入ったものの、やがて、彼らが幽霊に感化されていることに気づきます。そして兄妹の隠し持った意図に苦しめられることに……。

相手は子供なんですが、それだけに隠し持った意図などといっても誰もまともに取り合ってはくれず、そして子供たちはそれをよくわかってもいます。

そこまで切迫した攻撃が行われるわけではなく、微妙な心理的駆け引きに終始していますが、その微妙な意図が嫌らしく陰湿でもある。幽霊騒動と重責に押しつぶされそうな主人公が追いつめられるには、ちょっとした悪意くらいで充分だったでしょう。

 

幽霊という現象、に加えて

幽霊がモンスターと異なるのは現象に近いという点です。ただそこに現れ、何も語らず、意図もわからず、ただ見える。それがたまらなく怖い。さらに決して見物だけでは済まされず、時として命を落とす場合もあります。

『ねじの回転』ではそうした幽霊像を踏襲しつつも、子供たちに悪影響を与えつつ主人公を追いつめていく点に、はっきりとした悪意が感じられます。それでいて決してその目的は明らかになりません。何をしてくるかわからない状態です。

幽霊との、そしてそれ以上に子供たちとの、ジリジリと相手の出方を伺う神経戦がしんどいところであり見所でもあります。主人公は悩み動揺しつつも、なんとか解決しようと立ち向かいます。幽霊と対決しつつも子供たちは救いたいので難しい。主人公は精神的に追い込まれ、ピリピリしがちなのですが、基本的に真面目で健気です。

 

まとめと感想

幽霊現象に仄見える悪意と、主人公の心の葛藤に惹きつけられる作品でした。そして、幼い兄妹の愛らしい姿が物語を華やかにしています。あどけなくも一筋縄ではいかないところが彼らの魅力ですね。

ラストは衝撃的で切ないものでした。

必死で立ち向かって、得られたものもないのだなあ……。その後の優しい人柄がそうといえばそうでしょうか。

 

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