カレン・ウィルキンソン『エドワード・ゴーリー インタビュー集成 どんどん変に・・・』―ゴーリーの作品たち―『ウエスト・ウイング』『不幸な子供』『おぞましい二人』『蒼い時』

 

皆さま、こんにちは。グレコです。

今日はカレン・ウィルキンソン編『エドワード・ゴーリー インタビュー集成 どんどん変に・・・』―ゴーリーの作品たち―です。

ゴーリー連載ラストになります。

今回はインタビューからの話題や分析も交えた各作品の書評です。

以下、四つの作品に焦点を当ててゆきたいと思います。

 

『ウエスト・ウイング』

直訳すると「西棟」という意味です。建物のことですね。

テキストは一切なく、イラストのみで展開します。

どの絵も屋内で起こる、つながりのない、ないようであるような、

そして不気味で、何が起こっているのかわからない、

非常に恐怖を感じる作品。

屋敷の中を徘徊する怪物か幽霊の視点であるようにも思えました。

が。

この本が捧げられているエドマンド・ウィルソン

この人は高名な批評家で、ゴーリーのテキストのほうに辛口だったそうです。

ならばと、ゴーリーは彼のために、テキストのない絵本を作ったのでした。

ジョークで一冊。

第一、この本を捧げられてもどうしたらいいんだ……。

『不幸な子供』

ゴーリーによると、『パリの子供』という映画に

インスパイアされたのだそうです。

(以前の記事で小公女のアンチテーゼと書きましたが、

間違っておりました。失礼しました。以前の記事でも訂正しております)

しかし、途中からまるで筋書きは変わってしまいます。

映画のほうはハッピーエンド。

「やりすぎた」とはゴーリーの弁。

ゴーリーが作品の着想について明確に語ることは珍しく、

作品について説明することもあまりなかったようです。

不運な子供を描くことが多いゴーリーの絵本。

ゴーリーは「形式の模倣」を作品の主題にすることが多く、

とすると、「形式の模倣」こそがその作品の目的であり、

そこに表現されたモノ、例えば話の筋立ては、

特にゴーリーにとっては、さして意味を成さないものになります。

それにしては『不幸な子供』のシニカルさは強烈です。

もしかしたら、そこが「やりすぎた」という

ゴーリーの言葉の真意かもしれません。

スポンサードリンク
 

『おぞましい二人』

異色作。ゴーリー自身も特別な思い入れを語る作品。

いい意味ではないと思います。

これはイギリスで実際に起こったある事件から

着想を得た作品です。

その事件について、ゴーリーは大変なショックを受け、

独自に資料を調べるうちに、その衝撃を深めたようです。

作らなければという、使命感のようなものがあったのでしょう。

作品にはゴーリー独特のユーモアやセンスがちりばめられていますが、

やはりどうにもスッキリした読後感ではない。

事件については私自身も少し調べてみましたが、

概要だけで吐き気を催すようなシロモノでした……。

『蒼い時』

旅嫌いだったというゴーリーが、数少ない旅行経験の一つである

スコットランド旅行から着想を得たという作品。

二匹の犬が不思議な会話をしながら各地を廻ります。

珍しくモノトーンに青いカラーを取り入れた作品。

風景をあまり描かないゴーリーなので、

(しかし、旅行には風景を見に行くといいます)

作中では、屋外と思しきいろいろな場所に二匹の犬がいることはいるのですが、

あまり旅行というかんじはしません。

旅行がモチーフなんて、言われなければわからないかもしれない。

交わされる会話は意味深長で謎めいています。

またイラストは、ゴーリーの特徴である緻密な線の描写は少なめですが、

洗練されていて、とてもファッショナブル。

睡蓮の花咲く湖でボートを漕ぐ絵がステキです。

(でも何故オールが浮いているのか)

扇のようなモチーフが見える絵もありますし、全体的に余白が印象的。

ゴーリーが関心を寄せる日本美術の影響でしょうか。

巧みに配された青の色が効いています。

因みに『蒼い時』はフランス語で黄昏どきという意味です。

まとめ

『どんどん変に・・・』は幾つものゴーリー絵本を見た後で

手に取ったのですが、非常に興味深く、

読後に改めて絵本を見てみると、さらに面白さが増しました。

絵本についての書評というのは非常に難しかったんですが、

『どんどん変に・・・』を読んだことで、

以前の『ギャシュリークラムのちびっ子たち』の記事における、

自分自身の消化不良を多少なりとも解消できた気がします。

 

ところで、

『どんどん変に・・・』の本文中で、

作品からゴーリーの不幸な子供時代を類推する向きが多くて驚きました。

“人が物事に意味を見出しはじめときには気をつけろ”

……というバランシンの意見に賛成だというゴーリー

安易な分析が煙たかったというのは想像に難くありません。

 

なにはともあれ、ゴーリーについて思いっきりかけて、

大満足の自己満足です。

明日はお知らせになります。

それではまた。

スポンサードリンク