夢とうつつが交錯する和の幻想綺譚。平野啓一郎『一月物語』

 

皆さま、こんにちは。グレコです。

今日は平野啓一郎著『一月物語』について。

 

 

作家について

京都大学在学中に雑誌に掲載されたデビュー作『日蝕』が芥川賞を受賞。

当時の最年少記録でしたので、大変に注目されました。

『一月物語』は受賞後の作品です。

日蝕』に続いて小難しい文章で書かれています。

この次の作品までこの特徴的な文体が用いられましたが、

作家自身が「ロマンティック三部作」と名づけて一区切りとし、

以降の小説ではだいぶ趣が変っています。

 

作品について

明治時代の日本が舞台です。そのあらすじは――

***

気鬱に悩まされる青年・井原真拆は

療養のための旅路で、不思議な蝶の因縁により、熊野の山中に迷い込む。

そこで蛇毒に倒れるが、気がつくと、寺で介抱されていた。

真拆を助けた和尚の円祐は、人里離れた寺で一人生活しているかと思われたが、

実は寺の奥に病身の老婆を匿っているという。

だが、真拆は夜毎、若く美しい女の夢を見るようになり、

疑念と恋慕の情を募らせていく。

***

蝶と女の面影をモチーフに夢と現実が交錯する、

幻想的で非常に美しい物語。

ちょっと読み難くてとっつきにくい文章が、

この世界観にはぴったりです。

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時代背景から考える

明治時代を舞台にして、和の怪奇幻想世界が展開されます。

当時は文明開化により、西洋文化が流入したての時代です。

作中にも、モネの絵画を思わせる日傘を差した洋装の女性が出てきます。

 

日本が近代化へとスタートを切った時期でもあり、

まだまだ江戸時代からの伝統的な文化が息づいていた頃でもある。

現代的な感覚を持った主人公が、

まだ実体を持つ和の怪異に出逢うとしたら、

この時代をおいて他にないでしょう。

 

ただ、

物語は殆どが熊野の山寺で展開します。

和洋折衷の独特な文化を味わいたいなら向かないかもしれません。

和の世界はどっぷり堪能できます。

 

日と月のように比べてしまうこと

今買うと日蝕もついてくる――!

 

私的に有名な『日蝕』のほうはあんまり好きになれなかった。

クライマックスの描写が細々と描きすぎて醜悪で……。

個人的な価値観ですが、私はきれいに描かれていたら、

本来薄気味悪いはずのものでも受容できます。

つまり、そうではなかったということです。

 

対して『一月物語』。

日蝕』に比べると話題にならなかったと記憶しています。

が、こちらは一貫して美しい。

めくるめく夢のような華麗で悲しい物語。

暗く冷たい水底を見つめるように、

朧な予感を抱きながら過ごす日々が、

終盤で一気に激情を得て燃え上がる。

実に魅せられる展開で、

物語を読んだという確かな手応えがありました。

明日は自作駄文の予定です。

それではまた。

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