ポー唯一の長編、エドガー・アラン・ポー『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』ほか
皆様、こんにちは。小暮です。
今回は創元推理文庫より刊行されているエドガー・アラン・ポー著『ポオ小説全集2』について。久々のポーです。例によってネタバレあります。
「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」
ポー唯一の長編作品。海洋冒険ものです。
主人公ピムは、家族の反対を押し切って、友人オーガスタスの協力のもと、友人の父親が船長を務める船に潜入します。心躍る海の旅のはずでしたが、海上で船員の反乱が起き、船長は小船に乗せられ追放。航海士と反目するピーターズと協力し、航海士一派を壊滅させますが、船は漂流を始めてしまいます。
途中、飢えに苦しむさまが克明に描かれており、追い詰められた果ての残酷描写もあり。助けを求めた船が、骸を山と積んでいたときの絶望感はもう……。
オーガスタスは病死し、ピムとピーターズはギリギリのところで、南洋貿易を目指す船に救出されます。二人はその後、船の南極探検に同行することになります。
この話が発表されたのが1837~38年ということなので、ざっと調べましたが、ちょうど南極大陸への関心が高まっていた時代のようですね。1820年頃に発見され、いよいよ本格的な上陸がかなうかどうかといったあたり。
南極大陸と思しき場所の描写がずいぶんファンタジー風です。まだ地球上に人類未踏の地が残っていた時代ならではという気もします。
結末は知りきれトンボ感が否めず。謎は謎のままという意図なのかも。なにより、長いですね。私的には漂流中の切迫感が良かったです。
「沈黙」
とても幻想的な短編作品。 サフラン色の河の水、太陽の赤い目、巨大な青白い睡蓮……色鮮やかで壮大な情景が目に浮かびます。
「けれども夜は深まり、彼は岩のうえに坐っていた」
という一文が繰り返され、まるで詩のよう。ラストは主人公の身が案じられ、ドキッとさせられます。
「ジューリアス・ロドマンの日記」
こちらも結構長い作品。北米大陸の探索がまだ終わっていなかった時代に、冒険に出た人物の日記が、とある編集者によって紹介されます。売り物のビーヴァの毛皮 を獲るのが目的のはずなのですが、作中で編集者が断っているとおり、主人公のロドマンは川を渡る船旅に心を奪われ、商売は二の次といった様子です。途中、インディアンとの抗争、熊との遭遇など危険な目にも遭います。
冒険への憧れが感じられる物語です。結末は……まだまだ先がありそうです。終わっていない気も。
「群集の人」
ひたすら群集を求めてロンドンをさまよう老人の話。ロンドンのコーヒー店の窓から通りを眺めていた主人公は、雑踏の中に一人の老人を見出します。その特異な風貌に予感めいたものを感じ追いかけると、 老人はなんとも奇妙な様子で、ただ群集を追い求め通りを歩き回っていました。日が暮れて夜が明けるまで一睡もせずに。
ポー曰く「解読を許さない心」と。群集を追い続ける老人の姿は、他者とのつながりの中でようやく自己の存在を確認できる人間心理の象徴のようにも思えます。
「煙に巻く」
15歳にも50歳にも見える21歳のユング男爵が、大学で起こしたある悪戯の話。標的となった学生をからかってタイトルどおり「煙に巻く」というものです。
相手の得意分野、危害は加えない、人前で恥をかかせない、というあたりマシな悪戯でしょうか。相手の聞き知るところとなれば、ひどく恨まれそうですね。
「チビのフランス人は、なぜ手に吊包帯をしているのか?」
えー、滑稽譚です。
愛しい女性の手だと思って、心を込めて握っていたら、ライバルの手だったという。とても酷い。笑。
「エドガー・ポオ その生涯と作品 シャルル・ボードレール」
こちらはボードレールのポー評です。ポーを天才と讃えています。酩酊するのも仕方ないと擁護しているのを読んで、ポーが酒好きだったことを知りました。エドガー・ポオとしているのもボードレールの敬意の表れでしょうね。アランの名を名乗ることは、生前のポーの望まぬことだったらしいので。
なのにエドガー・アラン・ポーの名が残っているのは、どうやらポーを嫌っていたグリスウォルドという人物の画策らしいです。結局自分の人間性を後世に残してしまったのが報いといえるかもしれません。モーツァルトとサリエリ然り。
チャレンジ報告
ポーの小説の コンプリートチャレンジというものをのそのそとやっております。これで39作品です。あと2冊。