すれ違う父子のようだった、メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』|19世紀イギリス怪奇小説

 

皆さま、こんにちは。小暮です。

今日はメアリー・シェリー『フランケンシュタイン』についてです。

 

名もなき怪物の物語

超有名どころ。知らぬ人はない、といっていいと思います。天才科学者によって生み出された怪物の物語であるのは周知の事実ですが、フランケンシュタインは科学者の名前で怪物には名前がありません。そして怪物は高い知性を有しています。それゆえに自分の宿命に気づいてしまうという、一言でいうと、非常に悲しい話でした。

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怪物ができるまで

物語は、北極を目指す船長の航海中の手紙として語られます。船長は海を漂っていた若い男を保護したところ、この人物が身の上話を始めますが、それは恐るべき内容でした。

彼は、スイスの裕福な家庭に生まれたフランケンシュタインという人物でした。フランケンシュタインは学問に秀でていたため故郷からドイツの大学へと進みます。彼はそこで新たな生命を作り出す研究に没頭し、墓を荒らし、小動物を傷つけ、それらをかき集めて繋ぎ合わせ、ついに実験は成功します。

しかし、出来上がったのは世にもおぞましい怪物でした。ショックのあまりフランケンシュタインは故郷へと逃げ出してしまいます。

怪物は生き延び、フランケンシュタインを追って、次第に彼を追いつめていきます。

 

至極まともな怪物の主張

怪物はスイスの山でフランケンシュタインとの邂逅を果たしたときに、思いの丈を吐露します。怪物は最初、言葉も喋れなかったのだけれども、とある小村に潜伏するうちに言葉を覚え、そして身近に見ていた一家へ親愛の情を抱くようになりました。しかし、知性を手に入れても、怪物であるために人間に恐怖され迫害を受ける。どこへ行っても拒絶される。生れ落ちたときから孤独な運命を背負わされた彼は、自分を創り出したフランケンシュタインをひどく恨むのです。

恨む、というのは語弊がありますね。

怪物の心情はとても繊細に描かれています。その要求は、フランケンシュタインが自分と共に生きるか、同じ宿命を背負った仲間を作り出せ、というものでした。つまり孤独から解放しろという至極真っ当な要求です。自分を創り出したのなら事後の責任も持て、ということですね。

フランケンシュタインは怪物の要求を容れて、もう一人の怪物を作り出そうとしますが、人類のためにそんな罪を犯せないと思い直し、作成途中の実験体を破棄します。様子を見張っていた怪物は絶望し、フランケンシュタインへの復讐を誓います。

 

父と子

怪物にとってフランケンシュタイン父親。つまりこれは父と子の物語なのですね。

フランケンシュタインは自分の家族や友人を怪物に殺されてしまうのですが、それでも彼の選択はブレないといえばブレない。ただひたすら逃げます。

一方で、怪物は自分の存在を突っぱねて逃げる父親を追い続ける。怒りと悲しみをぶちまけつつ、結局一番の望みは人里離れた場所でフランケンシュタインと親子として暮らせればということだったのではと思います。

 

憎しみと悲しみとすれ違い

フランケンシュタインが怪物から父親としての愛情を望まれていたことに気づいていたのかどうか、明確に書かれてはいません。

もしかしたら、認めたら終わりだと思っていたのかも……。

人間は努力すれば何でもできるというものではなく、特に愛情はどうしようもない。フランケンシュタインは怪物と親子として暮らすのは生理的に受け付けないので、一切の言及をしないということなのかなと。

普通の子供と違い、死骸を繋ぎ合わせた実験体で、しかも創造主に自分を見立てた挙句の挫折なので、余計に頑なになったのかもしれません。

怪物はフランケンシュタインの親族を殺して、その居場所を奪うことで、自分を見るように仕向けていきます。そこには憎しみしかないけれども、そうする以外にない。そして、ようやくフランケンシュタインは怪物との対決を決意します。フランケンシュタインとしては共に生きるのではなく、共に滅ぶ道を選んだのですね。

怪物がフランケンシュタインのために悲嘆にくれる場面がとても印象的でした。ついに名前を与えられなかった怪物と、一切怪物の心を顧みなかったフランケンシュタイン。気高い魂が怪物に宿ってしまった不幸を考えてしまいます。その罪にフランケンシュタインが向き合ったとは、やはり言えないでしょう。

 

まとめ

この話を書き上げたとき、シェリー夫人は弱冠18歳。早熟な少女たっだのでしょう、フランケンシュタインに物語を語らせながらも怪物の側に寄り添う視点には深い洞察力がうかがえます。また自然科学への警鐘とも取れる内容にも、宗教的見地からというだけではない、先見の明が感じられました。

フランケンシュタインと怪物との葛藤に引き込まれる作品です。何より知性の高い怪物の苦悩が心に残りました。

 

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