有名すぎて読まないホラーを読む。ロバート・ルイス・スティーヴンソン『ジーキル博士とハイド氏』|19世紀イギリス怪奇小説

 

皆さま、こんにちは。小暮です。

今回は19世紀イギリス怪奇小説の一つ、ロバート・ルイス・スティーヴンソン著『ジーキル博士とハイド氏』をご紹介したいと思います。

有名な作品でもありますし、ネタバレで参ります。ご注意を。(と思いましたが、多少まろやかにしました)

 

名作『ジーキル博士とハイド氏』ですが……

冒険小説『宝島』で知られるスティーヴンソン作。『フランケンシュタイン』『吸血鬼ドラキュラ』と並んで、有名すぎて読まないホラー小説といわれているようです。一般には二重人格(解離性同一性障害)を扱った作品だと思われていて、私も長くそう思っていました。読んでみて最も驚いた点が、そうじゃない! ということです。

物語の冒頭、ハイド氏が深夜に及んだ暴行について、そこに居合わせた知人からジーキル博士の友人アターソンは話を聞かされます。

深夜の町で奇怪な男ハイドは通りすがりの少女を踏みつけにし、通行人から取り囲まれ非難されると、少女の家族に支払う慰謝料の小切手を用意します。そこに記されていたのは、高名な紳士で通っているジーキルの名前でした。アターソンはちょうどジーキルから随分風変わりな内容の遺言状の作成を依頼されており、どうも善良な人物であるジーキルがいかがわしいハイドという男に脅されているらしいと推測するのですが……。

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ハイド氏の悪事が気になる

ハイド氏については、人を不快にさせずにはいられない気味の悪さがある人物として描写されており、悪事を重ねているらしいということは匂わされているのですが、明らかになっているのは少女を踏みつけたことと殺人くらいです。程度の酷さからいえば暴行や殺人も充分ですが、エピソードの数の面からは物足りない。ポーがその著作の中で詳細に残酷描写を行うのに比べ、随分ソフトな描き方という印象です。

 

両者の関係

ハイドは、やがて殺人事件を起こし失踪。

ハイドがロンドンを闊歩している間、元気のなかったジーキルは、ハイドの失踪によりかつての快活さを取り戻しますが、ハイドがロンドンに再び戻ってきた気配とともにまた塞ぎこんで閉じこもりがちになっていきます。

ハイドとジーキルの関係性を、もうほとんどの読者は読了を前にして知っているわけですが、それでもスリリングです。両者は人相、体格、年齢も異なっていて、ここでまず二重人格という先入観が覆されます。

前半で物語は山場を迎え、後半は手紙という形で真相が語られます。そこからは安定した社会的地位と豊かな暮らしを手に入れながら、悪の誘惑に負けてしまったジーキルの苦悩が浮かび上がります。

 

恐怖の核心

この話で何が怖いのかというと、やはり名誉も地位もあるジーキル博士の転落です。

超のつく保守的な価値観に支配され、近代社会の基盤が築かれていたヴィクトリア時代の作品なので、その衝撃は現代人にも理解しやすい。

一応、コントロールが利かない兆候が出た時点で、ジーキルはハイドの封印を決意しています。しばらくは善良な紳士として振る舞いますが、誘惑に勝てず、また元に戻ってしまう……。軽い気持ちで始めてやめられなくなるというあたりもリアルです……。

気になるのは、隠れた悪の側面がもともとのジーキルの資質だったとしても、それが肥大化したのは抑圧しすぎたせいではないか、ということです。ジーキルは善良な人物の典型で、あまりに演じすぎている気がします。小出しに悪を発散しといたらよかったのでは……(猟奇小説を書くとか、猟奇絵を描くとか)。人から引かれても破滅よりいいと思うのです(犯罪よりは芸術!)。

 

ジーキル博士のモデル

どうもモデルがいたようで、18世紀のスコットランドエジンバラで実業家でありながら夜は強盗を働いていたウィリアム・ブロディー、さらに同時代の医師にして墓荒らしのジョン・ハンターの名が挙がっています。ここらへんはさすがイギリスと思ってしまいますね。イギリスのイメージというと、やはり幽霊と殺人鬼が跋扈するミステリー大国ですから。

 

まとめ

解離性同一性障害の話というよりは、二重生活の話です。 ジーキルの友人であるアターソンやラニョンが巻き込まれていく過程に引き込まれます。長年「名前だけ知ってるけど……」というかんじの作品でしたが、さすが有名どころ。読み応えのある一冊でした。

メインの登場人物が紳士ばかりでストイックなのもよかった。

 

+16.7.14~15.  加筆修正

 

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