奇妙な世界にはまる"不条理系"短編小説5選

 

皆さま、こんにちは。小暮です。

今回はお薦めの短篇集5冊をご紹介します。

 

星新一選『ショートショートの広場』

星さんといえばショートショートの旗手ですが、SFに興味のない私は星さんの作品より星さんに選ばれた一般の方の作品のほうが好きでした。味噌汁の話とか、赤い空の話とか、面白かったですねえ。不条理な設定のものも多く、楽しめます。

ショートショートの魅力というと、完璧に仕込まれた短篇であること。つまり良く出来た話に唸らされるという点に尽きるかと思います。ショートショートの秀作を読むとあっと言わされる。その小気味よさが好きです。ショートショートは完全なる娯楽作品で、「面白い」とか「すごい」とか「あ」などとしか言えないし、きっとそういう感想が正しいのだと思います。言葉を連ねると蛇足になってしまう。語れないけど抜群に面白い。

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村上春樹カンガルー日和

 表題作を含む短編集です。因みに私はこのほかに『羊をめぐる冒険』くらいしか読んだことがありません。

カンガルー日和はなぜカンガルー日和なのか。

それは動物園にカンガルーを見に行こうというカップルが雨が降るやら何やらで延び延びになっていて、ようやく予定が合いしかも晴れたある日のこと、今日こそはカンガルーを見に行くのに絶好の「カンガルー日和」だ! ということになります。ほかにも「形而上学」とか「メタファーとしての何某」とか、淡々として透明感のある文章の中に独特の言い回しがたくさん出てきます。そしてタクシーの運転手が吸血鬼だったりアシカが部屋を訪ねてきたりと何かと不条理。最後に収録されている「図書館綺譚」だけ長めですが、あとは皆スッキリと短く淀みなく読める一冊です。

カレル・チャペックカレル・チャペック短編集』

チェコの国民的作家の短編集です。日本人にはややわかりにくいものもありますが、総じてユーモアが効いており、思わず吹き出してしまうような話もあります。例えば「五切のパン」は土からパンを作るキリストなんてパン屋にしてみればとんでもない、という言われてみれば確かにと膝を打ちたくなるような話です。「小麦」では投機の話から一転してのオチが……呆気にとられます。言葉遊びが好きな人はニヤリとする趣向です。かと思えば「眩暈」は優れたミステリーで作家の懐の広さが感じられます。「切手コレクション」は出色。なんにしろヒネたセンスです。どうしてそんなふうに考えるのという思考の不条理が持ち味ですね。外国のジョークが好きな人は楽しく読める一冊ではないかと思います。

横溝正史『山名耕作の不思議な生活』

この本は作家のナンセンス時代と呼ばれる時期に発表された作品を集めたものだそうで、だいぶ奇妙な作風のものが揃っています。表題作はマーク・トゥエインの小説に憧れ、貯蓄に情熱を傾ける主人公のお話です。貯金が増えると楽しいという感覚は、ダイエットや燃費の良い運転の仕方にはまるのと似ているかもしれませんね。ユーモアあふれる作品やほのぼの系もありますが、全体としてはホラーテイストの話が多めです。

こちらは前述の本に比べると、もっと生々しく人間の生活というものが感じられます。言うなれば不条理ドラマです。「世にも奇妙な物語」がお好きな方にぴったりの一冊。

鳥居みゆき『余った傘はありません』

芸人の鳥居みゆきさん。実は小説家でもあります。興味本位で手に取った結果、なめらかな文章と言葉遊びの面白さ、そして緻密な構成に驚かされることとなりました。双子のよしえ・ときえ姉妹を中心に展開する短編集。すべてがゆるく繋がっています。怖いんですが……特に「かくれんぼ」「←ラブレター」は怖すぎるのですが……とても、面白い。

これは確かコントでやっていたなあという作品も収録されています。そして、明らかに実在の芸人さんたちをモデルにしている人物が複数登場し、軽い芸人評になっています。中にはご本人と思しき登場人物も。これには笑わされました。かと思えば「道化」でホロリとさせられます。

なんでそんなに思い詰めるのという心理的不条理が多めです。けれども、それにとどまらない揺れ動くさまざまな感情が織り込まれています。非常に人間くささを感じる作品集です。

それにしても「ショートショートの広場」の表紙はなぜあんなに怖いのだろう。

 

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