創元推理文庫に頼ることにしたエドガー・アラン・ポー『ベレニス』『モレラ』『リジイア』ほか

 

皆さま、こんにちは。小暮です。はや4月です。

今日は懸案のポー作品についてお送りします。

 

前書き

ポー作品のコンプリートチャレンジなるものに取り組んでいるのですが、やりますといった後でポーの全集を探すという見切り発車ぶりでありました。電子書籍が苦手な私がざっくり当たってみた結果、創元推理文庫の『ポオ小説全集』が適当なのではないかと。ぐだぐだながら詩・批評は除きまして、こちらの全4巻の読了を以て完結としたいと思います。

今回は第1巻を……以前ご紹介しました『鐘楼の悪魔(十三時)』『アッシャー家の崩壊』『ウィリアム・ウィルソン』は割愛いたします(ちなみに、ポー作品を含む過去記事は随時、加筆修正予定です。不出来なものはいくつか削除しております)。

『壜のなかの手記』

ポーが好んだ題材の一つ、海にまつわる冒険譚です。多少怪奇要素も含まれ、主人公が途中で乗り移った船は、幽霊船か、少なくとも人知を超える力が働いた船なのではないかと思われます。ポーが空想する極地において、自然の脅威に飲み込まれようとする恐怖心理が綴られており、タイトルとほんの一文が結末に関する読者の想像を掻き立てます。冒険+ホラーといった感です。

『ベレニス』

かつては輝くばかりに美しかったけれども病魔に蝕まれ容色を損なった従妹と結婚する主人公。主人公は狂人で、花嫁となった従妹ベレニスのその歯が彼の心を捉えてしまいます。残酷だけれどもどこか美しい怪奇譚です。

『モレラ』

非常に美しい怪奇譚。ポーは耽美的な世界観の中に女性を描き出すのが巧みですね。知的な美貌の女性モレラは主人公の伴侶となりますが、主人公はモレラの魂に惹かれつつも決して女性として愛することができません。モレラは主人公に尽くし、やがて迎えた死の床で子供を産み落とします。復讐という見方もできるでしょうが、それよりもモレラの切ない思いや願いのほうが強く感じられました。

『ハンス・プファアルの無類の冒険』

 オランダのロッテルダムに突如として現れた気球によって、行方不明となっていた職人ハンス・プファアルからの手紙が届けられます。それによると、プファアルは生活苦に追われる日々の中で出会った天文学の小冊子に触発され、気球に乗って旅立ったといい、大空のはるかかなた成層圏を越え、遂には月面着陸を果たしたというのです。が、いろいろな噂の飛び交う中ラストは読者の想像に委ねられます。ポーが好んだ気球による冒険譚。地球から月へと到る過程を、当時の天文学や物理学を駆使して詳述しています。……正直……私はSFに興味がなく……。

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『約束ごと』

イタリア・ヴェニスを舞台にした悲恋。当の二人の関係は匂わされる程度なのですが、結果的としてとてもネガティブにその絆の強さを示すことになります。何があったのかはわからないけれど……というところが却ってじわじわ鈍い衝撃となって伝わります。

『ボンボン』

料理人にして哲学者ピエール・ボンボンのお話。途中までは完全なる滑稽譚で、調理場と哲学書の関係など、かなり悪ノリしています。ラストも結局ギャグですね。

『影』

寓話として書かれている作品です。短いながらも疫病で滅んでゆく世界観がしっかりと描かれ、怪奇作品としても魅力的です。

『ペスト王』

こちらも疫病をテーマにした寓話。副題は「寓意を含む物語」となっています。日本人がイメージする疫病神といった態のどことなくユーモラスな人物たちが登場します。主人公の二人組の水夫が逞しく強かです。

『息の喪失』

滑稽譚ですが、残酷描写もちらほら。しかし読みながら吹き出してしまうほどの可笑しさもありました。主人公は妻を罵倒中に息を喪失。家出の後、耳を切り落とされたり、絞首刑にされたり、方々で散々な目に遭いますがめげません。死にません。

『名士の群れ』

こちらもかなりふざけているお話。「たわごと町」に生まれた鼻が立派な主人公は父親から鼻理学の論文を進呈され、やがて研究者として身を立てます。上流社会でも鼻を武器に渡り歩いていこうというところで、問題を起こしてしまいます。主人公を諭す父親の言葉は、意外と深みがあるように思えました。

『オムレット公爵』

ほおじろが原因で死んでしまうオムレット公爵が主人公。悪魔とトランプ勝負をすることになるのですが……これはちょっと私にはよくわかりませんでした。滑稽譚だとは思うのですが。解説によるとフランス風を意識しているということです。

『四獣一体』

これも悪ノリが酷いです。王様がキリンでオリンピック勝者。という話です。

『エレサレムの物語』

聖書から題材をとっています。聖書のエピソードに私が詳しくないのでアレですが、生け贄に関するパロディなのではないかと。

『メルツェルの将棋指し』

デュパンシリーズの一つ『マリー・ロジェの謎』と同様に、文献からの推理を主題としています。『マリー・ロジェの謎』はまだ小説の体裁を保っていますが、こちらは純粋に推理のみ。しかも対象がカラクリ人形なので正直かなり退屈でした。

『メッツェンガーシュタイン』

敵対関係にある二つの名家の物語。残酷な君主の前に不吉な馬が現れ、代々伝わる不吉な予言がやがて成就を迎えます。馬に魅入られた若き暴君の悲劇を描いた、いわゆるゴシックホラーです。

『リジイア』

主人公が崇拝するように愛する伴侶リジイアは、やがて病床に着き、この世を去ります。亡きリジイアの主人公への愛情、生への執着は主人公へ強い印象を残しました。妻亡き後沈鬱な日々を送る主人公は、やがて若い姫君と再婚します。けれども二度目の伴侶も病床に伏し、やがて不思議な出来事が起こります。ポー作品の女性は儚く柔弱な印象ですが、リジイアは意志の強さが感じられ魅力的でした。

『使い切った男』

滑稽譚です。ホレボレするような立派な体格の男性の正体は……。グロテスクで面白い話というのがポーは得意ですね。個人的にもそうしたタイプの話はツボです。また滑稽譚に見られる独特の台詞回しも面白おかしいですね。

『実業家』

 実業家だと称する主人公は、職を転々とした挙句「暴行殴打業」だの「泥はね業」だのをはじめます。最終的には猫にまつわる商売に落ち着きますが、結局マトモな事業は何一つ行っていません。ラストも滑稽譚での締めくくりでした。

まとめ

冒険譚あり、幻想的な怪奇譚あり、そして滑稽譚もありと、第1巻はバラエティに富んでいます。ただ非常に幻想的で美しい怪奇譚が、他の滑稽譚によってムードを壊される心配は若干あります。読みたい作品のテーマにあわせて拾い読みするといいかもしれませんね。記事のタイトルに選んだ3作品はいずれも幻想怪奇系で、特にお勧めです。

チャレンジ報告

これで33作品。今回は一気に進みました。のろのろ達成を目指したいと思います。

 

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