首なし騎士の怪異。伝奇小説『スリーピーホローの伝説』と映画『スリーピーホロウ』
皆さま、こんにちは。小暮です。
今日はワシントン・アーヴィング著『スリーピーホローの伝説』と
映画『スリーピーホロウ』についてです。
伝説の”首なし騎士”
スリーピーホローというのは、アメリカに実際にある地名のようです。
訳すと、”まどろみの窪地”となります。
この土地には独立戦争で大砲に頭を打ち抜かれたという、
首なし騎士の幽霊が出るという伝説が伝わっています。
ただし、何か酷い悪さをするというよりは、
『出るらしい』と噂されるくらいの幽霊のようです。
小説『スリーピーホローの伝説』
首なし騎士の伝説をもとに、ワシントン・アーヴィングが書いた作品。
『スケッチブック』という本に、短編作品として収録されています。
*あらすじ*
学校教師イカバッド・クレーンは、スリーピーホローの地に住み着き、
子供たちに勉強を教え始める。
村一の豪農ヴァン・タッセル家には、年頃の美しい娘カトリーヌがいて、
一人娘の彼女はやがて裕福なその家を継ぐことが約束されていた。
イカバッドと村の青年ブロム・ボーンズは、
カトリーヌを巡って火花を散らす。
やがてヴァン・タッセル家で『縫物仕事の会』という名目の
パーティーが行われ、その帰り道、イカバッドの目の前に
首なしの亡霊が姿を現す。
*
のどかな田舎町の昔話という趣です。
美しい娘と彼女の家が所有する豊かな実り。
農家だけにその財産は”食”と直結しています。
イカバッドの野心が情景描写に反映され、
その瞳に世界が輝いて映っているのがよくわかります。
しかし幽霊が登場するくだりでは、うってかわって、
彼を取り巻く世界は暗く不安なものに様変わりします。
怪談というより民話の雰囲気です。ラストの解釈によるところもあります。
首なし騎士はあまり出てきません。
恐怖のもとはあまり出てこないほうが怖いんですが、
前半においては存在感も薄いように思います。
実りと幽霊、素朴さと意地悪さ、恋心と胸算用。
エネルギッシュでグロテスクな人々の生命力に
幽霊も掻き消されるかんじですが、
最後は弱った心の隙間につけ込んだといった形。
イカバッドにとっては踏んだり蹴ったりです。
映画『スリーピーホロウ』
アーヴィングの小説をもとに、ティム・バートンが映画化した作品。
ヒロインのカトリーヌ・ヴァン・タッセル役はクリスティーナ・リッチ。
話自体かなり脚色されていて、イガボットの人物像も
原作のような野心家ではなく学者肌というかんじです。
発明好きのイガボットがよく操る道具はスチームパンクぽいデザイン。
カトリーヌもちゃんとヒロインらしく、
童顔でグラマラスなクリスティーナ・リッチは豊饒の象徴としてぴったりです。
そして、首なし騎士は原作に比べて躍進の登場回数。
容赦なく首を飛ばして回ります。首切りシーンはかなりの量です。
さらに、首なし騎士の背後にはある陰謀が動いていて、
それを解き明かそうというミステリー要素もあります。
*
とにかく映像が美しいです。
イガボットのややコミカルな性格付けが、
個人的にはちょっと惜しい。
もっとジトジト暗いと良かったんですが……せっかくのゴシック怪奇なのだから。
公開当時に映画館で観ましたが、
美しく作り込まれた世界観にはどっぷり浸れました。
アイアンメイデンからイガボットの母親が出てくるシーンを
よく覚えています。
美しいだけに衝撃的で。
漆黒の騎士が幼い二人の姉妹に出会うシーンも印象的でした。
*
結末は原作よりスッキリします。
しかし、原作のイカバッドの逞しさにも
私などは期待してしまいます。
次回は10月23日更新予定です。
それではまた。