宿命の一族の悲話。エドガー・アラン・ポー『アッシャー家の崩壊』
皆さま、こんにちは。小暮です。
今日から3日間、不思議を扱った小説をご紹介したいと思います。
1回目はエドガー・アラン・ポー著『アッシャー家の崩壊』について。
怖い不思議がテーマです。
ポーについて簡単に
19世紀初めに活躍した作家で、怪奇短編小説の名手として知られます。
探偵デュパンシリーズでは、
以後連綿と続く探偵小説の雛形を作り上げました。
アメリカ人ですが、幼少期から少年時代をイギリスで過ごしたためか、
その小説はヨーロッパ的な憂愁を帯びています。
『アッシャー家の崩壊』のあらすじ
貴族の家系と思われるアッシャー一族の末裔に招かれ、
彼らが代々所有する陰鬱な屋敷を主人公が訪れるところから
物語は始まります。
*
主人公は、幼馴染のロデリック・アッシャーから
久し振りに手紙を貰うが、
文面からどうも差し迫った印象を受けたので、
幼馴染と再会するためアッシャー家を訪れる。
如何にも鬱屈とした沼のある風景に囲まれたアッシャーの邸宅で、
主人公を迎えたロデリックは少年時代の面影が消え失せ、
病魔の影の色濃い風貌へと変わり果てていた。
それは代々伝わる一族の特質からくる病で、
血を分けた唯一の肉親である
ロデリックの妹のマデリン嬢も重病なのだという。
永続する分家を持ったためしがない、
直系のみの家柄であるアッシャー家には
もはや兄妹しか一族はおらず、
妹を失う恐怖にロデリックは苛まれているようだった。
主人公の滞在中に、マデリン嬢は儚い身の上となり、
彼女を失った日からロデリックは明らかに不審な様相を帯び、
やがて、アッシャー家に異様な出来事が起こる――。
*
病的特質を持った古い家系、陰気な古い館、
若い女性の埋葬、嵐の夜の事件……。
短い物語の中にゴシック怪奇の要素がめいっぱい詰め込まれています。
一族の運命
アッシャー家は滅びゆく運命にある一族です。
既に兄妹二人しか残っておらず、そのうち妹のマデリンは病の床にあります。
子供は家族の歴史を背負って生まれてくる。
分家が続かず衰亡の一途を辿っている一族の子として生を受け、鬱々とした土地にある屋敷で過ごすうちに、彼らが感じ取ったのはどんなことだったでしょうか。
そして、ロデリックはまさに最後の一人になろうとしている。
彼は一族の悲運をたった一人で背負うことに、耐え切れなかったのでしょう。
その苦悩の発露としての行動だったのでは。
居合わせた主人公は一族を看取る役目を負い、城は一瞬にして墓へと変わる。この象徴性も凄まじいなと思います。
まとめと感想
芥川龍之介は著書『ポーの片影』の中で、不幸なポーの人生に触れ、
『偉大なる人は遂に後世を待つより仕方がないものかと思はれます』と評しています。
たしかに、存命中は不幸なまま、後の世に評価される芸術家は多くいます。
本人、嬉しくないだろうなあ。
『アッシャー家の崩壊』は、好きな要素がてんこ盛りで、かえって語るのが難しい作品です。
苦悩、破滅、狂気、古めかしい一族……じわじわ、ひたひたくる、陰惨さというか、鬱屈として淀んだ人の魂の澱というか。
そういうものが感じ取れて、ぞーっとします。
でも、怖いもの見たさの恐怖ではなく、心の琴線に触れる恐怖なのです。
ポーが生前、見捨てられたような作家であったのにも、心を震わされます。
やっと、少しはマシに書けたろうか。
2016.7.24. 加筆修正
明日は夢野久作『押絵の奇蹟』の予定です。
それではまた。