少納言が仕えた永遠のヒロイン。清少納言『枕草子』~中宮定子篇~1

 

皆さま、こんにちは。グレコです。

今日は『枕草子』の連載第一弾として、

中宮定子に焦点を当ててみたいと思います。

 

中宮定子について

清少納言の女主人で、一条天皇の后です。

推定ですが、少納言より11歳年下で、夫の一条帝より3歳年上です。

長く唯一の后でしたが、実家の中の関白家の衰退とともに、

三人の女御や、道長の娘・彰子の入内で苦境に立たされます。

一条帝の寵愛は変りませんでしたが、政治的には追い詰められてゆきました。

 

エピソード1

『雪のいと高う降りたるを』

枕草子の各段のタイトル代わりになっているのは、

その段の書き出しの言葉です。

これだと馴染みがないですが、実は古典の教科書にも載っている非常に有名な段。

香炉峰の雪はどうなっているでしょう」

このセリフ、大抵の方は知っていると思います。

中宮定子の謎かけです。

これを少納言が読み解き、御簾を高く上げて雪の庭を見せる、という逸話。

雪の積もった庭が見たいけれども、

せっかくだから白楽天の詩を踏まえて余興にしよう――。

定子の遊び心に、少納言が応えます。

 

通じ合った主君と臣下の例として、

鎌倉時代の説話集『古今著聞集』にも採られています。

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エピソード2

『宮の五節出させたまふに』

宮中での行事の一つに豊明の節会というものがあります。

その行事で舞われる五節の舞は、選ばれた舞姫が舞を奉じるというものです。

宗教的な儀式ですが、平安時代の前期までは舞姫は後宮入りするのが通例でした。

定子や清少納言が生きた時代には、それはもう過去のものでしたが、

一際華やかで宮中の皆が楽しみにする行事なのは変らないままです。

 

そこで中宮定子は才気を発揮して更に花を添えます。

梅壷の女房たちに青摺の唐衣と汗衫という揃いの衣裳を着させ、

ずらりと御簾際に揃えます。下仕えの者から童女まで、全員が一揃いの衣裳です。

鮮やかな青い衣裳で梅壷が染まるのに心惹かれ、

「小忌(神職)の女房」と呼んで、殿上人(参内を許された貴公子)が集まってきます。

さて、ここで御簾越しに和歌の遣り取りをする実方の中将は、

在原業平と並び称されるほど風流な美男です。

その上、少納言の別れた二番目の夫。

実方の中将は梅壷の若い女房に戯れかけ、若い女房はしどろもどろ。

……いろんな意味でやきもきしている少納言の姿も垣間見られます。

その後、舞姫が参上するのに、小忌の女房たちも付き従い、

再び中宮のもとへと送り迎えするさまなど、とても豪華なものでした。

 

宴を彩り、人々を楽しませる、定子の機知が冴える逸話です。

 

エピソード3

『宮にはじめてまゐりたるころ』

これは清少納言が、定子の元に仕え始めたばかりの頃の話です。

まだ馴れない少納言に、定子は絵を見せたり、

手蹟を見せて誰のものか尋ねたり、いろいろ心を配ります。

しかし、とても内気で夜にしか参上できない少納言

「葛城の神(夜の神)」というあだ名がついてしまいます。

ある雪の日、伊周大納言が定子の雪の見舞いに訪れます。

「道も無いかと思いましたのに」

「あわれと思し召しくださるかと」

古歌を主題にした兄妹の見事な遣り取りに、少納言は深く感動。

この後散々伊周にからかわれて、少納言はゲッソリするんですが、それは兎も角。

「私のこと、好き?」

急に定子に尋ねられて、「はい」と答えようとしたら、

誰かが台所のほうでくしゃみをするので、定子は「ウソを言ったのね」と、

奥に引っ込んでしまいます。

くしゃみには願いが叶わないという意味があるとされた

当時のジンクスを踏まえた冗談なのですが、

このときの打たれ弱い少納言は大変なショックを受け、

ひたすらくしゃみを恨みながら局(自室)に下がります。

そこに定子から手紙がきて、少納言もなんとか返す……という逸話。

 

まだ原石だった少納言を、定子がアメとムチで躾けています。

少納言のことは初めから気に入っていたようです。

 

中宮定子と梅壷

梅壷は中宮定子が最初に住んだ宮中の御殿です。

定子や仕える女房たちのサロンのことを、

その住まいの名をとって、梅壷と呼びます。

 

後宮の歴史や学問に通じた定子は、才知に優れ、

風流も深く解し、日常のふとした場面でも趣向を凝らす人でした。

定子のもとに集った女房たちは、清少納言をはじめ、

宰相の君、小式部内侍など、教養高い女性たちです。

彼女たちは、女主人の機知に、すぐさま応じて答えなければならない。

気の抜けない状況であったことでしょう。

だからこそ、女房たちの知性と機転は、ますます磨かれ、

中でも頭角を現したのが清少納言でした。

 

宮中で花が咲くように、明るく朗らかに暮らし、

しかもその一つ一つが知性に裏打ちされていて面白い。

そこに帝が心惹かれてやってくる。

殿上人も目が離せない。

定子はまだ十代であったのに、後宮の役割というものを、

よく心得ていたと思います。

それは、中の関白家での教育の賜物でもあったでしょう。

自らも、皆も楽しませ、帝の心を明るくする、優れた良いお后です。

 

しかし、美しい梅の花は、無粋な突風のような道長に散らされてしまいます。

政治ってのは残酷だ……。

 

 

……エピソード、あと二つほどご紹介したいので、

ここで一旦おしまいにします。

枕草子―付現代語訳 (上巻)

 

明日は『枕草子』~中宮定子篇~2の予定です。

それではまた。

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