再考『人間失格』。太宰治の苦悩に思いを馳せ……

 

皆さま、こんにちは。小暮です。5月です。

今回は改めて太宰治の『人間失格』を取り上げたいと思います。

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太宰治人間失格』をもう一度

一度記事を書いたものの、手応えがなくもやもやしていた「人間失格」。あえなく再考の運びとなりました。以前の記事はこちら。一応残しておこうと思います。 

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なかなか読み解くのが難しい作品です。でも見過ごせない何かがあり、つまりそれが魅力なのでしょう。

ユーモアを感じさせる文章だとか、一つ一つのエピソードへの共感など、心に引っかかる部分は多いように思います。しかし、全体としてどういう話なのか? それがとても掴みづらいのです。

子供時代から続く理解者のない孤独。最初の心中事件の後、友人知人男性たちから向けられた白眼視。神聖視していた妻が犯罪に巻き込まれ、それに向き合えなかったこと。

裕福な家庭に生まれ、女性たちに愛されながらも、主人公の大庭葉蔵は小さな綻びと捩れを抱え、あるかないかの気流の乱れが次第に嵐となって彼を飲み込んでいくかのようです。

人間失格」という衝撃的なタイトルについとらわれてしまうのですが……。

レッテル貼りをした父親への思いは大した主題ではないように思えます。父よりも自分自身にフォーカスしたような……そして自己否定でも自己肯定でもない……ああつまり、これはどこまでも苦悩の物語なのではないか。

大庭葉蔵は答えを見出せず、苦悩のさなかで消えていったのだと、そう思い至ったのでした。

 

太宰と芥川

作者の太宰に注目してみると、彼自身も苦悩に満ちた生涯を送っているように思えます。太宰は芥川を敬愛していたといい、芥川が自ら命を絶ったことで、太宰の中で自決が”あり”になってしまったようです。

太宰は有名な二つの心中事件のほかにも、単独での服毒自殺を何度も試みています。

芥川の苦悩は「歯車」を読むだけでも察せられ、そして芥川の悩み方はかっこいい。芥川が太宰に比べ、揶揄されることがないのは、そのかっこよさゆえでしょう。

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一方で、様にならないユーモアを感じさせる文章が、太宰の持ち味といえそうです。

「生まれて、すみません」だとか……。

そこが魅力なのでしょうけど、逸話とあいまって、太宰を揶揄する向きが強まったというのはありそうですね。

心中相手だけ死なせた事件が有名な太宰。しかも、別に婚約者がいる中でのことです。太宰が好きではないというと、それだけで話が通じますよね。

しかし、芥川も太宰もともに苦悩を抱えていたという点は共通しそうです。

 

苦悩について

芥川や太宰を追い詰めた苦悩は何だったのか。

その正体はいまだ闇の中にあります。芥川は「漠然とした不安」、太宰は「小説を書くのが嫌になった」と書き残していますが……なんだかよくわからない理由ですよね。

芥川は生い立ちが複雑で、文壇では才能を妬まれることもあったようです。太宰は何かと槍玉に上がっていたようですし、両者ともに疎外感を抱えていたのかもしれません。

それに作家ならではの悩みもあったはず。

書くことによって、本当なら目を逸らしておきたい人や自分の本質に目を向けなければならなかったでしょうし、作品を世に出すことで湧き起こる反響が堪えることもあったのではないでしょうか。

 

人間失格』に込められたもの

実際、太宰は父親に脳病院へ入れられた経験があり、その仕打ちに憤っていたという話を読んだことがあります。

しかし、前述のとおり、小説『人間失格』において、父親への思いはその主題ではないように思います(バアのマダムに一言言わせてはいますが)。

太宰自身は一度憤ったからには、自分は「人間失格」ではないという自覚を持っていたはずです。

けれど、人間である自分を純粋に謳歌することができない。いつまでも苦悩が消滅しない。そこにあるのはきっと「人間失格ではないこと」を証明できないもどかしさでは――。

ところが、この作品は捉えどころがなく、これがテーマなのだと断言するのがどうにも憚られます。

少年時代の大庭葉蔵は道化を演じていました。「人間失格」に漂う滑稽さは、太宰自身がかぶる道化の仮面なのかもしれません。それゆえに何かを包み隠したようなわかりづらさがあるのではないかという気がしています。

それも含めて、太宰自身を色濃く投影した物語なのでしょう。というのが現時点で思っていることで、また変わることもありそうです。

 

まとめ

正直に言って、もともと私は太宰があまり好きではありませんでした。やはりその逸話ですよね……。

以前の記事は、太宰についての先入観をならしながらという難しさもありました。結局、どうやったらこの主人公は救われたのかということにばかり目がいってしまったのが反省点です。今回はもう少し主人公に寄り添えたのではないかと思っています。

太宰についても、一生もがき苦しんだことには深い同情を覚えます。

 

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