しみじみ読める人情派時代小説『深川澪通り木戸番小屋』『おせん』

 

皆さま、こんにちは。小暮です。

今回は北原亞以子著『深川澪通り木戸番小屋』と池波正太郎著『おせん』を。

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北原亞以子『深川澪通り木戸番小屋』

20年ほど前のNHKドラマ「とおりゃんせ〜深川人情澪通り」の原作です。ドラマでは神田正輝さんが笑兵衛役で、池上季実子さんがお捨役。

(追記)江戸の町で木戸番を務める笑兵衛・お捨夫婦は、品のある佇まいからして庶民の出とは思えず、何やら訳ありの様子。江戸の市井の人々と交流を重ねていく中で、次第に夫婦の抱える秘密も明らかになっていきます。連作短編。(ここまで)

原作を読むと、お捨は天真爛漫で、どちらかというと松坂慶子さんぽいです。

文章に色気が感じられないのが個人的には物足りないのですが、名前のわりにいかつい笑兵衛・上品でほがらかなお捨夫婦をはじめ、登場人物が魅力的。特に好きなのが天晴れな女スリ・おくま。切ない最後ながら、なんとも小気味良い生き様でした。

全体的に切り口が甘く、江戸美人の目が大きいところなどが気になるものの、注がれる視線が温かいので読み心地がいいです。気になる部分もほのぼのとした優しさが上回ります。

 

正反対だったのが宮尾登美子さんの『一弦の琴』。

文章はたおやかでしたが、人物像に薄気味悪いものを感じてしまいました。もっとさわやかに読めるかと思っていたので、違和感があり、最後まで読めず。

 

池波正太郎『おせん』

剣客商売」「鬼平犯科帳」で知られる池波正太郎さん。個人的には単純明快なものの見方が気になります。しかし、江戸庶民の姿を描いた短編集「おせん」は心理描写が細やかで面白かったです。

顔にあばたのある少女が、自分の顔を見て人が驚き、すぐにその驚きを飲み込むのを、冷めた目で見ている。

謝ってきた女の言葉の勢いに気圧されたのが面白くなくて、許すもんかと意地になる。

そうした微妙な心の引っかかりが丁寧に描かれていました。時折、氏ならではの単純明快思考が顔を覗かせるのですが――それでも江戸庶民に寄り添う視線がやはり温かいのです。

斬ったり斬られたりの悲劇もあれば、心にしみるハッピーエンドもあります。なんともいえない人の狡さや罪深さが感じられる話も。

 浮世にひしめく人々の悲喜こもごもが凝縮された一冊。

 

まとめ

どちらもしみじみ読める短編時代小説です。『深川澪通り木戸番小屋』のほうは『おせん』に比べて残酷描写がないので読みやすいと思います。『おせん』はドロドロの話もあり、より濃厚です。

(17.5.5. 文章の一部を加筆修正)

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